山田英生:老化を防ぐ食べ方

良質なたんぱく質で若々しく。

肉食系長寿のススメ。

 

高齢者こそたんぱく源を 肉と魚の食べ方

 

 年をとると、肉を避け、魚や野菜中心のあっさりしたものを好む傾向があるようです。「肉はコレステロールが高いのに対し、魚は逆に低く、中性脂肪を下げる」との思いがあるからでしょうか。しかし、肉を控えたほうがよいのは、太りやすい40代、50代の話。反対に「食が細く、栄養不良に陥りやすい高齢者は、動物性たんぱく質をできるだけ摂ったほうがよい」と肉食を勧める専門家も少なくありません。肉には転倒による骨折や貧血を防ぎ、老化を遅らせる働きがあります。肉と魚は、1対1の割合で1日おきに、交互に食べるのが理想的な食べ方といわれています。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が肉と魚の効用、健康や老化への影響などについて語り合いました。

 

粗食は老化を早める

 

山田 人間、年をとると、若い頃のように肉や脂っこいものをあまり食べなくなりますね。どちらかといえば低カロリー、低脂肪で塩分控えめのあっさりした粗食を好む傾向があるようです。やはり、肉はコレステロールが高く、健康によくないと思われているからでしょうか。でも粗食ばかりで肉を食べないと、逆に栄養が不足しがちになり、かえって老化を早めてしまうことにならないか、心配になります。

 

白澤  「年をとったら粗食がいい」と思っている人は、意外と多いかも知れませんね。でも、それは、誤解ではないでしょうか。肉やコレステロールを抑える食事が必要なのは、メタボリックシンドロームに陥りやすい40代、50代の話であって、65歳以上の高齢世代では、そうした粗食は、むしろ老化を早める原因になる場合もありますね。確かに高齢になると、若い頃に比べて活動量が減り、その分エネルギー消費量も落ちてきます。しかも、臭覚や消化力も衰えて食欲が低下しますから、必要なだけの栄養さえ摂れなくなる恐れも出てきます。栄養状態がよいか悪いかは、その人の血液中のアルブミン濃度を測ればわかります。

 

山田 アルブミンは、肝臓でつくられるたんぱく質のことですよね。私たちにとって健康を保つだけでなく、若々しさや長寿にもつながる大切な成分と聞きました。

 

 

白澤  そうです。アルブミンの測定は、栄養状態を判断するだけでなく、老化の進行状況をチェックするうえでも欠かせません。たとえば自分で衣服が着れる、自分で食事が摂れる、トイレにも一人で行ける―など、自分の身の回りのことができる人は、アルブミンの量が十分足りている証拠。アルブミンの量が不足している人は、たんぱく質の摂取が少ない、といってもよいでしょう。おっしゃる通り栄養が足りなくなると、老化が進みます。老化をできるだけ遅らせるためにも、良質な肉を適量摂ることが大切です。

 

 

山田 「コレステロールが健康によくない」という考えは単なる誤解だったのですね。

 

お勧めは豚のヒレ

 

白澤 はい。肉から得られる良質なたんぱく質は、免疫力をつけるのにも役立ちます。肉を食べずに、血中コレステロール値が低くなり過ぎれば、血管が弱くなり、脳卒中が起きやすくなります。低栄養に陥らないためにも、肉はしっかり食べたいですね。

 

山田 肉にも、牛肉、豚肉、鶏肉など種類がたくさんあります。特に牛肉や豚肉では、「肩ロースがおいしい」「ヒレ肉がいい」など、人によっては部位ごとに好みも異なるようです。高齢者が老化を防ぐにはどんな肉を、どのように食べればよいのでしょうか。

 

白澤 何といってもお勧めは、豚のヒレ肉でしょうね。豚肉には、食ベ物の中でもトップクラスのビタミンB1が含まれ、牛肉と比べてもその量は、約10倍あるともいわれています。豚肉を100g~150g食べるだけで、1日のビタミンB1の必要量が確保できるほどです。

 

山田 ヒレ肉は豚肉の中でも最高級で、とても柔らかく、トンカツなどによく使われますよね。

 

白澤 豚のヒレ肉は、同じ豚のバラ肉と比べても、ビタミンB1の量は約2倍。しかも、脂肪やカロリーも少ないため、肥満や生活習慣病などの予防にもよいとされています。ビタミンB1には、ご飯やパンなどに含まれている糖質をエネルギーに変える働きもあるので疲労回復には、もってこいの食材ですね。

 

山田 豚肉料理といえば、すぐに頭に浮かんでくるのが沖縄です。沖縄の食文化を考える時、豚肉料理抜きには考えられません。「豚に始まり、豚に終わる」といわれるぐらい庶民の間に浸透し、その消費量は全国平均の約1.4倍と聞きました。それでいて、高齢者の生活習慣病は少なく、つい最近まで長寿県といわれてきました。その矛盾を、沖縄では「動物性たんぱく質の摂取が多いのに心臓病が少ない」というフランス人の「フレンチパラドックス」になぞらえて、「オキナワンパラドックス」と呼ぶ専門家もいます。やはり、豚肉を茹でこぼして食べる沖縄独特の調理方法や、いろんな食材と組み合わせたバランスのよい食生活が沖縄の長寿の一因だったのでしょうね。

 

肉と魚は1日置きに

 

白澤 茹でこぼして食べるのは、実に理にかなった調理法だと思いますね。それと、蒸したり、網焼きにするのも、余分な脂がカットできる点でお勧めできます。しかし、豚のヒレ肉にも、ビタミンB1が汗や尿からすぐに排出されやすいという欠点があります。ビタミンB1の体内への吸収率を高めるためには、タマネギやニラなどに含まれる「アリシン」というイオウ化合物と一緒に摂るのがよいでしょう。ただ、豚肉や牛肉に含まれる動物性脂肪は、中性脂肪やコレステロールを増やす「飽和脂肪酸」が多く、その摂り過ぎは、肥満や動脈硬化の一因にもなりかねません。その点、脂肪が少なく、肥満を防ぐのによいのが鶏肉ですね。特に胸の部分には、「カルシノン」という栄養成分が含まれ、これが筋肉の疲労物質である乳酸を中和してくれるため、疲労が抑えられ、元気でいられるのです。肉は一種類だけでなく、いろんな種類をバランスよく食べていただきたいですね。

 

山田 高齢になっても元気で暮らすには、肉を食べることも必要だということですね。適量の肉は、加齢による筋肉の低下に伴う転倒やビタミンの欠乏による貧血を防ぎます。でも、同じ動物性たんぱく質でも年齢を重ねるにつれ、「肉より魚のほうがいい」という人も私の周りには結構います。実際、70歳以上になると、魚と肉の摂取比率は約2対1といわれ、高齢になるほど魚介類を食べる人が増えているようです。魚はできるだけ食べたほうがよいのでしょうか。

 

白澤 そう思いますね。最近になって魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの栄養素が注目されるあまり、「魚がよくて肉はダメ」と思っている人は、意外と多いようですね。確かにDHAやEPAには動脈硬化を防ぎ、老化を遅らせる働きがあるため、「魚は健康によい」と思っても無理はありません。実際、魚をよく食べる人に認知症の人が少ないことも最近の研究でわかっています。でも、見逃してほしくないのが、たんぱく質の量です。魚といえども、その量においては、肉にはかないません。

 

山田 魚と肉では、どのくらいたんぱく質の量が違うのですか。

 

白澤 たとえば、牛肉の場合、すき焼き用の肉200gでたんぱく質は60g摂れますが、魚ではアジ1匹(約170g)を塩焼きにして、わずか15gしか摂れません。年をとってくると、脂っこいものは苦手という人が増えてきますが、いつまでも元気で長生きするためには、肉などの動物性たんぱく質も必要でしょう。できれば、魚と肉は1対1の割合で摂り、1日おきに交互に食べていただきたいですね。

 

抗酸化作用強い鮭

 

山田 魚にもタイやヒラメなどの白身魚、イワシやサバなどの青魚、カツオやマグロなどの赤身魚などがあります。かつて国民的アイドルだった長寿の双子姉妹「きんさん、ぎんさん」も魚が好物で、毎日のように刺身などを食べておられたと聞きました。魚が健康によいのは、誰でも知っていますが、先生がお勧めになる一番の魚は何でしょうか。

 

白澤 何といっても鮭ですね。「野菜の王様」がブロッコリーなら、魚の王様は、文句なしに鮭でしょう。鮭には強力な抗酸化作用があるだけでなく、ビタミンA、B2、Dなどのビタミン類のほか、コレステロール値を下げるDHAやEPAも豊富に含まれており、生活習慣病を防ぐにはピッタリの魚といってもよいでしょう。鮭の赤い身の色素成分は、「アスタキサンチン」という天然色素で、「海のカロテノイド」 とも呼ばれています。

 

山田 今、「鮭は抗酸化力が強い」といわれましたが、どのくらい強いのですか。 白澤 抗酸化力の強さでは、ビタミンEが代表格ですが、アスタキサンチンは、「ビタミンEの約500倍の抗酸化力がある」、といわれています。また、抗酸化力の強い野菜として知られるトマトの赤い色素「リコピン」と比べても数倍強いとの指摘もあります。この抗酸化力の強い鮭は、アンチエイジングにもピッタリで、朝食だけでなく、昼も夜も食卓に載せていただきたい魚の一つですね。

 

病気と縁遠い魚好き

 

山田 「魚好きの人は、認知症になりにくい」「魚をよく食べる男性には、糖尿病の人が少ない」などとも聞きます。まさに魚は、健康によい食べ物の代名詞のようにいわれていますが、中でもイワシ、サバ、アジなど青魚が持てはやされているのは、なぜですか。

 

白澤 北極圏に住む先住民、イヌイットの人たちは、アザラシの肉を主食にしています。ほかにクジラや鮭などもよく食べますが、野菜や果物はほとんど口にしないようです。脂質の多い食事の割には、心筋梗塞や脳梗塞の人が、ほとんどいない、といわれています。その理由は、主食のアザラシの肉に含まれるDHAやEPAなどの「不飽和脂肪酸」にあります。牛肉などに多い「飽和脂肪酸」の摂り過ぎは、血液がドロドロになりやすいのに対し、魚の脂に多いDHAやEPAには、血液をサラサラにする働きがあり、血液中のコレステロール値や中性脂肪を下げ、動脈硬化などの生活習慣病や脳血栓、心筋梗塞などの予防にもよいとされています。このDHAとEPAが特に多く含まれているのが、イワシやサバ、サンマなどの青魚なのです。健康のためにも、青魚を1日に1切れぐらい食べてはいかがでしょうか。

 

山田 こうした魚は、「比較的安くて、おいしくて、栄養満点」。この3拍子そろった大衆魚をできるだけ食卓に添えたいものですね。