山田英生:老化を防ぐ食べ方

良質なたんぱく質で若々しく。

肉食系長寿のススメ。

 

高齢者こそたんぱく源を 肉と魚の食べ方

 

 年をとると、肉を避け、魚や野菜中心のあっさりしたものを好む傾向があるようです。「肉はコレステロールが高いのに対し、魚は逆に低く、中性脂肪を下げる」との思いがあるからでしょうか。しかし、肉を控えたほうがよいのは、太りやすい40代、50代の話。反対に「食が細く、栄養不良に陥りやすい高齢者は、動物性たんぱく質をできるだけ摂ったほうがよい」と肉食を勧める専門家も少なくありません。肉には転倒による骨折や貧血を防ぎ、老化を遅らせる働きがあります。肉と魚は、1対1の割合で1日おきに、交互に食べるのが理想的な食べ方といわれています。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が肉と魚の効用、健康や老化への影響などについて語り合いました。

 

粗食は老化を早める

 

山田 人間、年をとると、若い頃のように肉や脂っこいものをあまり食べなくなりますね。どちらかといえば低カロリー、低脂肪で塩分控えめのあっさりした粗食を好む傾向があるようです。やはり、肉はコレステロールが高く、健康によくないと思われているからでしょうか。でも粗食ばかりで肉を食べないと、逆に栄養が不足しがちになり、かえって老化を早めてしまうことにならないか、心配になります。

 

白澤  「年をとったら粗食がいい」と思っている人は、意外と多いかも知れませんね。でも、それは、誤解ではないでしょうか。肉やコレステロールを抑える食事が必要なのは、メタボリックシンドロームに陥りやすい40代、50代の話であって、65歳以上の高齢世代では、そうした粗食は、むしろ老化を早める原因になる場合もありますね。確かに高齢になると、若い頃に比べて活動量が減り、その分エネルギー消費量も落ちてきます。しかも、臭覚や消化力も衰えて食欲が低下しますから、必要なだけの栄養さえ摂れなくなる恐れも出てきます。栄養状態がよいか悪いかは、その人の血液中のアルブミン濃度を測ればわかります。

 

山田 アルブミンは、肝臓でつくられるたんぱく質のことですよね。私たちにとって健康を保つだけでなく、若々しさや長寿にもつながる大切な成分と聞きました。

 

 

白澤  そうです。アルブミンの測定は、栄養状態を判断するだけでなく、老化の進行状況をチェックするうえでも欠かせません。たとえば自分で衣服が着れる、自分で食事が摂れる、トイレにも一人で行ける―など、自分の身の回りのことができる人は、アルブミンの量が十分足りている証拠。アルブミンの量が不足している人は、たんぱく質の摂取が少ない、といってもよいでしょう。おっしゃる通り栄養が足りなくなると、老化が進みます。老化をできるだけ遅らせるためにも、良質な肉を適量摂ることが大切です。

 

 

山田 「コレステロールが健康によくない」という考えは単なる誤解だったのですね。

 

お勧めは豚のヒレ

 

白澤 はい。肉から得られる良質なたんぱく質は、免疫力をつけるのにも役立ちます。肉を食べずに、血中コレステロール値が低くなり過ぎれば、血管が弱くなり、脳卒中が起きやすくなります。低栄養に陥らないためにも、肉はしっかり食べたいですね。

 

山田 肉にも、牛肉、豚肉、鶏肉など種類がたくさんあります。特に牛肉や豚肉では、「肩ロースがおいしい」「ヒレ肉がいい」など、人によっては部位ごとに好みも異なるようです。高齢者が老化を防ぐにはどんな肉を、どのように食べればよいのでしょうか。

 

白澤 何といってもお勧めは、豚のヒレ肉でしょうね。豚肉には、食ベ物の中でもトップクラスのビタミンB1が含まれ、牛肉と比べてもその量は、約10倍あるともいわれています。豚肉を100g~150g食べるだけで、1日のビタミンB1の必要量が確保できるほどです。

 

山田 ヒレ肉は豚肉の中でも最高級で、とても柔らかく、トンカツなどによく使われますよね。

 

白澤 豚のヒレ肉は、同じ豚のバラ肉と比べても、ビタミンB1の量は約2倍。しかも、脂肪やカロリーも少ないため、肥満や生活習慣病などの予防にもよいとされています。ビタミンB1には、ご飯やパンなどに含まれている糖質をエネルギーに変える働きもあるので疲労回復には、もってこいの食材ですね。

 

山田 豚肉料理といえば、すぐに頭に浮かんでくるのが沖縄です。沖縄の食文化を考える時、豚肉料理抜きには考えられません。「豚に始まり、豚に終わる」といわれるぐらい庶民の間に浸透し、その消費量は全国平均の約1.4倍と聞きました。それでいて、高齢者の生活習慣病は少なく、つい最近まで長寿県といわれてきました。その矛盾を、沖縄では「動物性たんぱく質の摂取が多いのに心臓病が少ない」というフランス人の「フレンチパラドックス」になぞらえて、「オキナワンパラドックス」と呼ぶ専門家もいます。やはり、豚肉を茹でこぼして食べる沖縄独特の調理方法や、いろんな食材と組み合わせたバランスのよい食生活が沖縄の長寿の一因だったのでしょうね。

 

肉と魚は1日置きに

 

白澤 茹でこぼして食べるのは、実に理にかなった調理法だと思いますね。それと、蒸したり、網焼きにするのも、余分な脂がカットできる点でお勧めできます。しかし、豚のヒレ肉にも、ビタミンB1が汗や尿からすぐに排出されやすいという欠点があります。ビタミンB1の体内への吸収率を高めるためには、タマネギやニラなどに含まれる「アリシン」というイオウ化合物と一緒に摂るのがよいでしょう。ただ、豚肉や牛肉に含まれる動物性脂肪は、中性脂肪やコレステロールを増やす「飽和脂肪酸」が多く、その摂り過ぎは、肥満や動脈硬化の一因にもなりかねません。その点、脂肪が少なく、肥満を防ぐのによいのが鶏肉ですね。特に胸の部分には、「カルシノン」という栄養成分が含まれ、これが筋肉の疲労物質である乳酸を中和してくれるため、疲労が抑えられ、元気でいられるのです。肉は一種類だけでなく、いろんな種類をバランスよく食べていただきたいですね。

 

山田 高齢になっても元気で暮らすには、肉を食べることも必要だということですね。適量の肉は、加齢による筋肉の低下に伴う転倒やビタミンの欠乏による貧血を防ぎます。でも、同じ動物性たんぱく質でも年齢を重ねるにつれ、「肉より魚のほうがいい」という人も私の周りには結構います。実際、70歳以上になると、魚と肉の摂取比率は約2対1といわれ、高齢になるほど魚介類を食べる人が増えているようです。魚はできるだけ食べたほうがよいのでしょうか。

 

白澤 そう思いますね。最近になって魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの栄養素が注目されるあまり、「魚がよくて肉はダメ」と思っている人は、意外と多いようですね。確かにDHAやEPAには動脈硬化を防ぎ、老化を遅らせる働きがあるため、「魚は健康によい」と思っても無理はありません。実際、魚をよく食べる人に認知症の人が少ないことも最近の研究でわかっています。でも、見逃してほしくないのが、たんぱく質の量です。魚といえども、その量においては、肉にはかないません。

 

山田 魚と肉では、どのくらいたんぱく質の量が違うのですか。

 

白澤 たとえば、牛肉の場合、すき焼き用の肉200gでたんぱく質は60g摂れますが、魚ではアジ1匹(約170g)を塩焼きにして、わずか15gしか摂れません。年をとってくると、脂っこいものは苦手という人が増えてきますが、いつまでも元気で長生きするためには、肉などの動物性たんぱく質も必要でしょう。できれば、魚と肉は1対1の割合で摂り、1日おきに交互に食べていただきたいですね。

 

抗酸化作用強い鮭

 

山田 魚にもタイやヒラメなどの白身魚、イワシやサバなどの青魚、カツオやマグロなどの赤身魚などがあります。かつて国民的アイドルだった長寿の双子姉妹「きんさん、ぎんさん」も魚が好物で、毎日のように刺身などを食べておられたと聞きました。魚が健康によいのは、誰でも知っていますが、先生がお勧めになる一番の魚は何でしょうか。

 

白澤 何といっても鮭ですね。「野菜の王様」がブロッコリーなら、魚の王様は、文句なしに鮭でしょう。鮭には強力な抗酸化作用があるだけでなく、ビタミンA、B2、Dなどのビタミン類のほか、コレステロール値を下げるDHAやEPAも豊富に含まれており、生活習慣病を防ぐにはピッタリの魚といってもよいでしょう。鮭の赤い身の色素成分は、「アスタキサンチン」という天然色素で、「海のカロテノイド」 とも呼ばれています。

 

山田 今、「鮭は抗酸化力が強い」といわれましたが、どのくらい強いのですか。 白澤 抗酸化力の強さでは、ビタミンEが代表格ですが、アスタキサンチンは、「ビタミンEの約500倍の抗酸化力がある」、といわれています。また、抗酸化力の強い野菜として知られるトマトの赤い色素「リコピン」と比べても数倍強いとの指摘もあります。この抗酸化力の強い鮭は、アンチエイジングにもピッタリで、朝食だけでなく、昼も夜も食卓に載せていただきたい魚の一つですね。

 

病気と縁遠い魚好き

 

山田 「魚好きの人は、認知症になりにくい」「魚をよく食べる男性には、糖尿病の人が少ない」などとも聞きます。まさに魚は、健康によい食べ物の代名詞のようにいわれていますが、中でもイワシ、サバ、アジなど青魚が持てはやされているのは、なぜですか。

 

白澤 北極圏に住む先住民、イヌイットの人たちは、アザラシの肉を主食にしています。ほかにクジラや鮭などもよく食べますが、野菜や果物はほとんど口にしないようです。脂質の多い食事の割には、心筋梗塞や脳梗塞の人が、ほとんどいない、といわれています。その理由は、主食のアザラシの肉に含まれるDHAやEPAなどの「不飽和脂肪酸」にあります。牛肉などに多い「飽和脂肪酸」の摂り過ぎは、血液がドロドロになりやすいのに対し、魚の脂に多いDHAやEPAには、血液をサラサラにする働きがあり、血液中のコレステロール値や中性脂肪を下げ、動脈硬化などの生活習慣病や脳血栓、心筋梗塞などの予防にもよいとされています。このDHAとEPAが特に多く含まれているのが、イワシやサバ、サンマなどの青魚なのです。健康のためにも、青魚を1日に1切れぐらい食べてはいかがでしょうか。

 

山田 こうした魚は、「比較的安くて、おいしくて、栄養満点」。この3拍子そろった大衆魚をできるだけ食卓に添えたいものですね。

山田英生:長寿を支える成分は野菜にあります

野菜中心の食卓には、何千種類もの

長寿を支える成分が含まれています。

 

病気を治す野菜の力 フィトケミカル

 私たちの食生活と切っても切れないのが、野菜と果物。このところ、ファストフードやコンビニ弁当を利用する人が急激に増える一方で、野菜や果物を摂る人が減ってきました。もともと、野菜や果物には私たちが健康を維持するために必要なビタミンやミネラル、食物繊維などが豊富に含まれています。近年、健康との関係から、にわかに注目されているのが野菜の持つ植物性化学物質「フィトケミカル」です。その多くは、色素や香り、苦みなどの成分ですが、今後アンチエイジングやがん予防などの面で大いに効果が期待されそうです。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が野菜や果物の持つ力、健康との関係などについて語り合いました。

目立つ野菜離れ

山田 最近、家庭菜園や市民農園で野菜や果物を作る人が増えてきました。野菜は、生活習慣病やがんの予防など健康によいといわれていますが、気になるのが日本人の野菜摂取量です。厚生労働省は、1日当たりの野菜摂取量の目安として350g以上を摂るよう勧めていますが、日本人の野菜摂取量は、増えるどころか逆に減っているようですね。私が聞いたところでは、1968年当時の摂取量は、1人あたり1日394g程度でしたが、2011年には277gと大幅に減っています。共働きの増加で、調理に時間のかかる野菜の煮物などが敬遠されたのも一因でしょう。もともと、日本食は、野菜を多く取り入れている点が特徴で、日本人は野菜をたくさん食べて世界トップクラスの長寿国家を築いてきたともいえます。野菜を食べなくなると、今後の日本人の健康が心配になってきますね。

白澤 日本人が野菜を食べなくなったのは、食生活の欧米化が進んできたことが大きいですね。元来、日本食はコメを主食に野菜をふんだんに使い、魚介類や海藻、豆類などを多く取り入れているのが特徴です。それが肉類中心の食生活に変わった頃から、野菜の摂取量が減ってきました。欧米と比べても、すでに10年以上前から日本人の野菜摂取量はアメリカ人のそれを下回っています(農林水産省「食料需給表」)。かつて心臓病やがんなどの急増に悩んだ米国は、「デザイナーフーズ・プログラム」や「1日に5皿以上の野菜と果物を食べよう」という『5 A DAY運動』を推進してきました。高カロリー、高脂肪の食生活を見直し、野菜、果物を中心とする食生活に切り換える運動に国をあげて取り組んだ結果、国民の野菜摂取量が飛躍的に増えたのです。 山田 日本人が野菜を食べなくなった背景には、食の欧米化に加え、ファストフードや加工食品・冷凍食品などが次々登場したこともあるでしょう。こうした食品は、確かに手間ひまかからず、早くて便利なのですが、なぜか野菜など伝統的な日本の食の原点を忘れているような気がしてなりません。野菜は、私たちの命を支える大切なビタミンやミネラルを豊富に含んでいますが、最近、健康との関係で話題になっているのがフィトケミカルです。私も注目している一人なのですが。

「第7の栄養素」

白澤 最近、そういう人が増えてきましたね。フィトケミカルは、ギリシャ語で「植物」を表す「フィト=Phyto」と英語の「ケミカル=Chemical(化学)」を組み合わせた造語で、野菜や果物の中に含まれている植物性化学物質のことをいいます。これは、タンパク質や炭水化物、脂肪などの栄養素以外の成分であり、薬のような働きが十分期待できます。3大栄養素やビタミン、ミネラル、食物繊維に続く「第7の栄養素」として注目されています。まだ、そのすべてが解明されているわけではありませんが、野菜や果物の中には、5000種類から1万種類のフィトケミカルがあるともいわれています。

山田 代表的なものには、どんなものがありますか。

白澤 たとえば、最近、話題になっているポリフェノールやカロテノイドのほか、フラボノイド、セサミン、カプサイシン、β-グルカンなどもフィトケミカルの一種です。 山田 ポリフェノールといえば、赤ワインやブルーベリーに含まれるアントシアニンやお茶のカテキン、大豆のイソフラボンなどがよく知られています。カロテノイドはニンジンやカボチャのβ-カロテン、トマトのリコピンなどですよね。フィトケミカルは、私たちの健康にとって重要な働きをしている、とよく聞きますが、実際、どんな働きがあるのですか。 ■第7の栄養素  「フィトケミカル」 1糖質  2脂質  3タンパク質  4ミネラル  5ビタミン  6食物繊維 7フィトケミカル

抗酸化作用に注目

白澤 一つひとつの野菜や果物に含まれているフィトケミカルの成分は微量ですが、私たちが健康を維持していくうえで、とても大切な役割を果たしています。その中でも、代表的なのが、抗酸化作用でしょう。たとえば、鉄は時間が経つとサビ(酸化)ますが、私たちの体も鉄と同じように細胞にサビが生じ、老化が進みます。その原因が活性酸素で、時々細胞の機能を低下させたり、DNAを傷つけるといった悪さをします。これが積み重なると、さまざまな臓器が動かなくなったり、動脈硬化やがんが発生するきっかけにもなります。この活性酸素を避けるには、できるだけ添加物の多い加工食品を避けると同時に、抗酸化作用の強いフィトケミカルを多く含んだ野菜や果物を積極的に摂ることです。中でも抗酸化作用が強いのは、ポリフェノールですね。 山田 抗酸化作用の強い野菜と果物をたくさん摂ることが、アンチエイジングにつながるのですね。

白澤 そうです。そのほか、フィトケミカルにはがんの発生やがん細胞の増殖を抑える作用もあります。

山田 大豆に含まれるフィトケミカルのイソフラボンが大腸がんや乳がん、前立腺がんの予防にもよい、と聞きました。

白澤 その通りです。それと、フィトケミカルのもう一つの働きは、炎症を抑える抗炎症作用ですね。以上の3点がフィトケミカルの主な作用ですが、こうした働きをすべて持っているのがポリフェノールの一種、レスベラトロールです。赤ワインやインドネシア原産の樹木「メリンジョ」の実に含まれています。

山田 メリンジョのレスベラトロールといえば、当社でも早くから注目し、商品化しており、好評をいただいています。

白澤 それと、フィトケミカルを語る時、忘れてはならないのがブロッコリーですね。約200種類以上のフィトケミカルを含み、この中には抗がん作用が期待できるスルフォラファンやその前駆体(生成する前の段階の物質)である「グルコシノレート」や抗酸化作用のあるカロテンなども含まれています。

山田 さすが「野菜の王様」といわれるだけあって、ブロッコリーには有効成分がたくさん含まれているのですね。

白澤 ブロッコリーは、フィトケミカル以外にも活性酸素を除去してくれるビタミンCやE、貧血を防いでくれる鉄、インスリンの働きを助けるクロムなどのミネラル類も豊富に含んでいます。ブロッコリーは、老化を防ぐ食材として食卓には欠かせない野菜の代表といってもよいでしょう。それと、私がお勧めしたいのが、香辛料のショウガとトウガラシですね。ショウガは、冷え症によいとして漢方薬にも使われていますが、このショウガの持つ栄養成分の代表的なものが辛み成分の「ジンゲロール」です。体を温め、血行をよくするほか、味覚を刺激して自律神経を活性化させ、脂肪を燃焼させる働きもあります。発汗や利尿、排便作用のほか、体内に蓄積された有害物質を分解するデトックス(解毒)効果があるともいわれています。

山田 当社でも国産のショウガを使って「しょうがはちみつ漬」や「はちみつしょうが湯」などを扱っていますが、健康に対する意識の高まりのせいか、お客様の人気が高く、生産が追いつかないくらいです。

白澤 一方、トウガラシに含まれているのが「カプサイシン」という辛み成分。体の中に入ると、血液を通して脳に運ばれ、自律神経の中の交感神経を刺激します。そのため、交感神経からアドレナリンが分泌され、体が熱くなって汗が出てきます。 山田 確かに、カプサイシンを摂取すると、アドレナリンの分泌が促されるせいか、新陳代謝が活発になり、ダイエットや肥満予防にも好影響を与えるそうですね。

不足気味の食物繊維

白澤 与えますね。それと、日本人に不足しているのが食物繊維です。厚生労働省は成人で男性は1日19g以上、女性は17g以上の食物繊維を摂るよう勧めていますが、日本人の摂取量は14g程度に過ぎません。食物繊維は腸の活動を刺激して便通を整える一方で、腸内の有害物質を排泄し、糖質やコレステロール、塩分の吸収を緩やかにします。このため、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病や大腸がんの予防などにもよいといわれていますから、食物繊維を多く含む玄米、ゴボウ、ニンジン、山芋、ダイコンなどの野菜を積極的に摂るよう心掛けていただきたいですね。

山田 日本人に足りないものといえば、果物もそうですよね。厚生労働省は、1日当たり200gの果物を摂るよう勧めていますが、実際の摂取量は約110g程度。先進国の中では最低レベルと聞きました。果物は、ビタミンをはじめミネラル、食物繊維などを多く含み、肥満、糖尿病などの生活習慣病予防や美容にもよいそうですね。

白澤 はい。果物は糖度が高く、肥満の原因になるとの誤解もあってか日本では食べる人が少ないようです。ところが、健康・体力づくり事業財団が100歳以上を対象に行った「百寿者のくらし調査」では、果物が「刺身」や「甘いもの」を引き離してダントツにトップでした。しかも、男女とも約6割が「ほとんど毎日」果物を食べている、と答えていました。果物に含まれているビタミンCや食物繊維などの健康効果を百寿者たちは本能的にわかっていたのかも知れません。

■百寿者の「一番好きな食べ物」

1位果物 18.5%

2位魚 12.3%

3位甘いもの 10.7%

4位刺身 9.5%

5位寿司6.4%

※健康・体力づくり事業財団調べ リンゴを食べよう 

山田 では、先生のお勧めの果物は何ですか。

白澤 何といってもリンゴですね。「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」という言葉もあるように、リンゴには健康によい成分がたくさん含まれています。その代表がポリフェノールですね。リンゴにはプロシアニジン、カテキン、ケルセチンなど何種類ものポリフェノールが含まれ、これらを総称して「リンゴポリフェノール」と呼んでいるほどです。こうしたポリフェノールには、脂肪の蓄積を抑え、中性脂肪を減らす働きがあります。特にプロシアニジンにはがん細胞を自死させる働きのあることがわかっています。

山田 いろんな栄養素や抗酸化作用を持つリンゴは、「果物の王様」ですね。1日1個は食べて健康を維持したいものです。

山田英生:健康長寿のガキ

健康長寿のカギを握る、歯と目。

 

 

毎日の手入れと正しい生活習慣で若々しく。

 

老化と歯、目の健康  

「最近、硬いものが食べられなくなった」「新聞の活字が見えにくい」―。こんな兆候が出たら、歯や目の老化のサインかも知れません。年をとるごとに増える体の変調。中でも大切なのが、歯と目の健康ではないでしょうか。「いくつになっても、自分の歯で食べたい」「できるだけ長く目の健康を保ち、快適な生活を送りたい」。こんな思いは、高齢者なら誰でも抱くはず。歯と目は、生きる力であり、噛む力と視力が十分であれば、活動意欲はさらに高まるでしょう。寿命と老化研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が健康な歯の保ち方や目の老化対策などについて語り合いました。

80歳でも20本の歯を

山田 食事は、よく噛んでゆっくり食べることが大切ですね。でも、噛みたくても歯がないと、うまく食べることもできません。年をとるごとに自分の歯が減っていくことは、とても寂しいことです。いくつになっても自分の歯で好きなものが食べられることほど、幸せなことはないでしょう。  私たちの歯は、親知らずを除くと28本ありますが、自分の歯が20本以上ある人は、60歳で8割弱といわれています。それが70歳になると、約5割に減り、80歳になると3割弱というように、加齢とともに減っていく、と聞きました。いつまでも元気に暮らすためには、自分の歯を維持することが、とても大事なことですよね。

白澤 歯と全身の健康は密接につながっており、歯の健康を損なうと、心身にも悪影響を及ぼしかねません。厚生労働省や日本歯科医師会が推進している「8020運動」は、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という国民運動ですが、なぜ20本以上の歯が必要かといえば、20本以上あれば、 ほとんどの食べ物を噛み砕くことができるからです。実際、「20本以上の歯が残っている高齢者は、残っていない人より活動的で、寝たきりになる人も少ない」との報告もあります。

山田 自分の歯がたくさん残っていれば、それだけ食べる楽しみも増えて、活動意欲もわいてくるというわけですね。

白澤 はい。この報告を裏付けるような興味深い研究もあります。東北大学大学院の歯学研究グループが健康診断を受けた70歳以上の高齢者を対象に認知症の程度と残存歯数との関係を調べた調査です。それによると、「正常な人たち」は平均で14・9本、「軽度認知症を疑われる人たち」は13・2本、「認知症が疑われる人たち」は9・4本の歯が残っており、健康な人ほど自分の歯を多く持っていることがわかりました。つまり、自分の歯が少ない人ほど、認知症になりやすいといえますね。

侮れない歯周病

山田 それは、私も聞いたことがあります。高齢になって歯が何本残っているかは、寿命とも関係があり、「残っている歯が多い人ほど寿命が長い」との調査結果もあるそうですね。歯を失うのは、歯周病とむし歯が主な原因といわれています。でも、最近では歯周病が全身疾患の引き金となったり、糖尿病や心筋梗塞などと深く関わっていることがわかってきた、と聞いたことがあります。歯周病は、細菌が原因で歯茎が炎症を起こし、悪化すれば歯を支える骨まで溶ける怖い病気だそうですね。

白澤 その通りです。歯周病は加齢とともに増える病気で、高齢者が歯を失う原因の90%を占めるとのデータもあります。歯周病は初期の段階では痛みがほとんどなく、歯がぐらついて抜けそうになるまで気がつかないこともあります。歯周病を予防するには、食後や寝る前にしっかり歯を磨き、歯垢を取り除くことが大事です。  それでも歯茎が腫れたり、出血するなど歯周病の前段階である歯肉炎になったら要注意です。そうならないためにも、3ヵ月から6ヵ月ごとに定期的に歯科検診を受けてほしいですね。歯が抜けても放置せず、自分に合った義歯(入れ歯)を作ることをお勧めします。しっかりと噛み合った義歯なら、硬いものも噛むことができ、自分の歯に近い効果が得られます。しっかり噛めれば、全身の栄養状態もよくなって脳も活性化されます。

山田 義歯が合うか合わないかは、とても重要なことで、合わないために食べたいものが食べられなければ、その人のQOL(生活の質)が著しく損なわれますね。 白澤 義歯は、ただ作ればよいというものではなく、歯科医院で何回も噛み合わせ具合を調整し、違和感がなくなるまでピタッと合うようにするのが一番です。101歳で亡くなられたプロスキーヤーの三浦敬三さんも総入れ歯でしたが、その調整も、かかりつけの歯科医によくやってもらっていたようです。そのせいか、生前、圧力鍋で丸ごと煮た鶏を、ひと口60回噛んで骨まで食べておられました。

心がけたい口腔ケア 

山田 それともう一つ、年をとると、噛む力が衰えると同時に、食べたものを飲み込む力が低下してきます。食べ物をのどに詰まらせて死亡する事故も年間約4000件ほど起きているそうです。私どもでも、数年前からローヤルゼリーやカプサイシン(トウガラシの辛味成分)を使い、嚥下力を回復させるサプリメントの研究開発に取り組み、ようやく完成させたところです。

白澤 そうですか。高齢になると、食べたものが飲み込みにくくなる嚥下障害に陥ることがよくあります。これが原因となって起こるのが、「誤嚥性肺炎」です。食べたものや飲んだものが食道ではなく、気道に流れ込んで起きるのですが、口の中の歯周病菌などが感染して炎症を起こします。ご高齢の方で、肺炎で亡くなる方も少なくないようですが、その多くが誤嚥性肺炎といわれています。特に寝たきりの方は、要注意ですね。

山田 口の中の健康が全身の健康にも影響を与えることを考えれば、日ごろから口の中を清潔に保つ口腔ケアが欠かせませんね。ハチミツには、歯石予防効果のあることが当社の最近の研究結果で明らかになっていますし、口腔内の善玉菌としての乳酸菌の働きなども口の中の健康に大きく関わっていることがわかっています。歯も含めたトータルでの口腔の健康が大切ではないでしょうか。

白澤 その通りです。日ごろから歯の手入れをきちんとすることは、とても重要です。歯は「生きる力」の一つといっても過言ではありません。

山田 今は、私たちが子供だったころに比べると、むし歯もだいぶ減ったような気がします。逆に「80歳で20本以上の歯を持つ人は、3人に1人と、8020運動がスタートした約20年前に比べると、大幅に増えた」と新聞で読んだことがあります。やはり、時々歯科医に歯石を取ってもらったり、定期的に歯科健診を受けるなど歯の健康に関心を持つ人が増えてきたからでしょうか。

白澤 そう思いますね。高齢になっても、ものをおいしく食べるには、日ごろから歯の手入れを怠らないだけでなく、歯の診察や相談に乗ってもらったり、自分に合った義歯を作ってくれる身近な歯科医を持つことが大事です。かかりつけの内科医を持つと同時に、かかりつけの歯科医も、ぜひ持っていただきたいですね。

緑黄色野菜を摂ろう

山田 年をとると、歯と並んで困るのが視力の低下です。加齢に伴う目の病気としては、水晶体が白く濁る「白内障」や目の圧力で視神経が傷つき、視野が狭くなる「緑内障」などがよく知られています。こうした病気も、最悪の場合は、失明につながる恐れもあるだけに注意が必要ですね。

白澤 年齢を重ねると、老眼が進行し、涙の分泌量も減ってきます。涙は目の表面を覆って角膜や結膜を保護してくれますが、分泌量が減ると、目の表面が乾燥し「ドライアイ」になりやすくなります。「目が疲れやすい」「しょぼしょぼする」などの症状があれば、ドライアイの可能性が高いですね。それと、最近、増えているのが「加齢黄斑変性症」です。

山田 私もその病名はよく知っております。この病気は、病名に「加齢」が付く点からいっても、老化と関係がありそうですね。

白澤 網膜の中心部にある「黄斑」と呼ばれる部分に異常が起こり、目が見えにくくなる病気です。おっしゃる通り、加齢に伴う病気で、日本でも寿命の伸びとともに近年、急激に増えてきました。ドライアイをはじめ、こうした目の老化を防ぐには、「目のビタミン」といわれるビタミンAがとても威力を発揮します。目の粘膜や角膜の乾燥を防ぎ、目の疲れや視力の回復に効果があります。たとえば、ニンジンやコマツナ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜には、「β-カロテン」が豊富に含まれていますが、これを摂取するとβ-カロテンは、体内でビタミンAに変化します。目の老化対策にはこうした野菜を積極的に摂っていただきたいですね。

山田 高齢になると、老化現象のせいか体のいろんなところに違和感が生じます。中でも、気になるのが心身の疲れですね。若い時は一晩も眠れば、すぐ回復したものですが、年をとると、なかなか疲れが取れません。疲労が重なり、体が弱ってくれば、他にもいろんな病気が出てきたり、持病が悪化する恐れも出てきます。

疲れた体にアミノ酸

白澤 疲労を溜め込まないためには、早めに休息を取ることです。それには睡眠が一番で、7時間ぐらいはぜひとも確保してほしいですね。実際、「睡眠時間が7時間の人が一番長生きする」との報告もあるほどです。加えて、時間だけでなく、質のよい睡眠をとることも重要です。それには、入浴が効果的です。少しぬるめのお湯にゆったりつかれば、自律神経の副交感神経が優位となり、心身ともにリラックスできます。 山田 そうすれば、寝つきも早く、質のよい睡眠が得られ、快適な目覚めが期待できる、というわけですね。

白澤 はい。それと、疲れた体には「アミノ酸」を補給するのもよいでしょう。アミノ酸がいくつか結合したものを「ペプチド」といいますが、これが豊富に含まれている大豆やモヤシなどを積極的に食べれば、疲労回復にも効果があります。

山田養蜂場 健康セミナー 健康のヒケツはおなかにあった!

~大切な腸内環境コントロール~

◇講師/辨野義己 氏

◇日程/4月28日(日)日経ホール(東京都千代田区)

   5月25日(土)パピヨン24ガスホール(福岡県福岡市)

   6月22日(土)岡山コンベンションセンター(岡山県岡山市)

   6月23日(日)リージョンセンター(岡山県津山市)

   7月27日(土)デザインホール(愛知県名古屋市)

   8月24日(土)若林区文化センターホール(宮城県仙台市)

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   10月5日(土)エルおおさかエルシアター(大阪府大阪市)

◇時間/各会場とも、14:00~15:30(13:30 開場)

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山田英生:肥満を防ぐ方法

野菜を先に。早食い、夜食は控える。

 

食べ方も、肥満を防ぐ大切な習慣です。

 

健康的な食スタイル

 万病のもとである肥満を防ぐには、食事の量を減らすだけでなく、その食べ方も重要になってきます。朝食は抜かずに、朝・昼・夜と3食きちんと摂り、夜食はなるべく控える。早食いはやめ、よく噛んでゆっくり食べる。できれば、すぐに満腹感の得られやすい野菜から先に食べ、主食のご飯やパンは後回しにする。食べることは、まさに食文化であり、食習慣や食スタイルは健康とは切っても切れない大切な関係にあります。寿命と老化研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が健康によい食べ方や食卓での工夫などについて語り合いました。

1日3食を規則的に

山田 肥満は老化を早め、生活習慣病や認知症、がんなどを発症しやすい、といわれています。前回の対談で先生は、「肥満を防ぐには、『20歳の時の体重+5kg以内』に維持することを目標に、食事の量は『腹七分目』に抑えることが大切だ」とおっしゃいましたが、そのためにはどのような食生活を心がければ、よろしいのでしょうか。 白澤 食事は1日3食、規則正しく摂ることが大切です。「痩せたいから」といって食事を抜くのは、感心できませんね。特に若い人の中には、「食べなければ痩せられる」と思い込んでいる人が実に多いようですが、これは大きな間違いです。人間の体には、飢餓の状態に対応する仕組みがあります。1食でも抜けば、体は飢餓状態がやってきたと思って、次の食事の時に食べたものをできるだけ溜め込もうとする習性があり、これが肥満の原因になりやすいのです。

山田 「痩せよう」と思って1食抜いたのに、逆に太ってしまっては本末転倒ですね。最近、若い人を中心に朝食を抜く人が増えてきました。食べたとしても飲み物にお菓子とか、サラダ程度の軽食で済ませている人が多いようです。朝食抜きは、ダイエット目的の若い女性の間で特にはやっているようですが、男性でも最近メタボを意識してか、食べない人が目につきます。やはり朝食を食べないのは、健康上悪いですか。

白澤 よくありませんね。朝食を抜くと、前夜の夕食から翌日の昼食まで半日以上も時間があき、胃腸は次の昼食を待ち構えていたかのように最大限にカロリーを溜めようとします。こんな時に昼食を食べれば、糖質(ブドウ糖)の吸収が早まり、血糖値が急激に上昇したり、脂質が吸収されやすくなるのは、一目瞭然です。血液中の余分なブドウ糖やコレステロールが中性脂肪に換えられ、脂肪細胞に蓄積されやすくなります。  こうした朝食を抜く食生活が習慣化すれば、肥満にとどまらずインスリンの分泌量が減ったり、働きが悪くなって糖尿病や高血圧を引き起こすリスクが高くなります。また、食事を抜くことは栄養不足にもつながり、老化を早めることにもなりかねません。ですから、1日3食、それもできるだけ均等に食べることが老化予防や肥満対策には重要なのです。

避けたい深夜食

山田 でも、最近は夜遅くまで仕事をしたり、遊んだりする夜型人間が増え、深夜に食事を摂る人も少なくありません。こうした人は、朝早く起きられず、食欲や時間がないからといって朝食を食べずに、慌てて家を飛び出している人が多いようです。「夜遅く食事を摂ると、太りやすい」ともいわれていますが、深夜に食べるのは控えたほうがよいですか。

白澤 夜遅く食べるのは、避けたほうが無難ですね。夜は昼間のように活動しないので、夜遅く食べるとエネルギーが消費されず、食べたものが中性脂肪となって脂肪細胞に蓄積されるため、太りやすくなるのです。「BMAL1(ビーマル・ワン)」という言葉をお聞きになったことがあると思います。脂肪を取り込むために働くタンパク質のことで、体内時計とも関係しています。日本大学の榛葉繁紀先生によると、時間によって分泌量が変わり、昼間は少なく夜になってから増え始め、特に午後10時から午前2時にかけて最も多く分泌されるそうです=左はイメージ図。この時間帯に食事をすれば当然、脂肪を溜めやすくなり、太りやすくなりますね。ですから、夕食は遅くとも夜8時から9時ごろまでには食べ終えるようにしたいものです。

山田 そうすると、BMAL1の分泌量が少ない時間帯の昼食や朝食をしっかり食べ、夕食は夜の午後6時とか7時の早い時間帯になるべく軽めに食べるのが、太らないための最も効果的な方法ですね。

白澤 はい、そうです。

早食いは肥満のもと 

山田 それと、最近気になるのは、早食いの人が増え、食事にかける時間が短くなってきたのではないか、ということです。外食の場合は、ハンバーガーショップや牛丼、カレー店などファストフードの店が増え、客の回転を速くしたい店側の仕掛けもあってか10分以内で食事を済ませる人が多いようです。自宅で食べる場合でも、手軽に食べられる出来合いの総菜などを、デパ地下などで買ってきては、限られた時間の中で食事を済ませる人が増えている、と聞きました。

白澤 確かに食事に時間をかけ、ゆっくり食べる人は以前に比べ確実に減ってきているようです。例えば朝食の場合、早い人なら5分もかけていないでしょう。朝、駅の立食いソバ屋では、注文して出てきたソバを3分くらいでかき込んで食べ終えている人もいます。家でもパン食なら10分もかけていないかも知れません。昼食だって、せいぜい15分くらいでしょう。比較的時間をかける夕食にしても30分ぐらいが普通ではないでしょうか。

山田 よく「早食いは太る」といいますが、本当ですか。

白澤 本当です。食事を始めてから満腹感を覚えるまで20分から30分かかります。ところが、よく噛まずに飲み込むように食べると、脳にある満腹中枢が「そろそろお腹がいっぱいだ」という信号を出す前に食べ過ぎて、太ってしまうのです。早食いを防ぐには、時間をかけてゆっくり食べるために、ひと口食べたら箸を置くような習慣をつけるのもよいですね。また、旬の野菜や果物、魚などの美味しさをじっくり味わって食べれば、早食いにはなりません。最低でも1回の食事に20分から30分はかけるようにしたいものです。

よく噛んで食べよう

山田 ゆっくり食べるには、よく噛んで食べるのがよい、ともいわれています。よく噛んで食べればそれだけ消化もよくなり、胃腸にも負担がかかりません。

白澤 100歳を超えても現役のプロスキーヤーだった故*三浦敬三さんも、総入れ歯ではありましたが、ひと口60回は噛むことを日課とし、圧力鍋で煮た鶏を骨まで食べておられました。三浦さんのように60回噛めれば申し分ありませんが、少なくとも30回は噛んでほしいですね。

山田 ヨーロッパではビールやワインを飲みながら食事に2時間、3時間かけるのも珍しくないといわれています。一方、日本では家庭での食事にせいぜい30分かければよいほうでしょう。親しい人と会話を楽しみながらゆったりと食事をするのは、豊かさの証しかも知れませんね。

白澤 まさに食べることは、その国の文化の一つといってもよいでしょう。ただ、お腹を満たすためだけに食べるのは、とても文化的とはいえません。ゆっくり味わって食べれば素材の持つ味や料理の味も、しっかり知ることができます。また、噛むことは、歯茎にある神経を通して脳に直接刺激を与え、脳の血流や代謝がよくなって脳の活性化にもつながります。よく噛むためには時々、ゴボウやニンジン、スルメやタコといった歯ごたえのある食材を選ぶのも一つの方法です。食材を大きめに切れば、自ずとよく噛むようになります。

食事はまず野菜から

山田 食事をする時、好きなものから先に食べる、それとも好きなものは取って置いて最後に食べる。人によって食べ方も千差万別です。お腹が空いていると、ご飯から先に食べたくなりますが、肥満を防ぐには「先に野菜を食べるほうがよい」との記事を新聞で読んだことがあります。 白澤 その通りです。肥満を防ぐには、何から先に食べたらよいか、その順番も重要です。ご飯やパンなどの主食から先に食べると、糖質の摂り過ぎになることがあります。肥満防止のためには、まずサラダやおひたし、煮物、汁物など野菜から食べ始めるとよいでしょう。そのあと、肉や魚などの主菜を食べ、最後にご飯などの主食を食べるのが、太らない食べ方です=左はイメージ図。野菜や汁物の具には食物繊維を豊富に含む食材が多く、すぐに胃が膨らんで満腹感が得られやすいうえに、肉や脂っこい料理の脂質の吸収を抑えてくれます。しかも、ご飯などの糖質の吸収も緩やかにし、血糖値の急激な上昇を防いでくれます。

山田 食べる順番を変えるだけで肥満が予防でき、糖尿病予防にもつながれば、こんなによいことはありませんね。

白澤 それと、一度にたくさん食べる「ドカ食い」や、食べられる時に集中的に食べる「まとめ食い」、テレビを見たり、新聞を読んだりしながら食べる「ながら食い」も肥満予防の大敵であり、よくありません。また、食事の味付けが濃いと、ついつい食が進んで食べ過ぎてしまううえに、塩分の摂り過ぎで高血圧を招く恐れだってないとはいえません。ただ、いきなり塩分を極端に減らすと、食事がおいしくなくなりますので、少しずつ薄味に慣れるようにしていくことです。薄味に慣れれば、素材そのものの味も感じられるようになります。

山田 あと、食卓ではどんな工夫をしたらよいですか。

白澤 毎日の食事では、なるべく1人に1皿を盛り付けるようにしたほうがよいでしょう。大皿から取り分けて食べると、つい食べ過ぎてしまうこともあるからです。また、茶碗も小ぶりのものに換えたり、主菜にキャベツやレタスを添えればボリューム感も増し、少ない量でも食べた気がします。できれば、ご飯をひと口分、少なめによそう習慣も身につけたいですね。それと、リビングなどの目に見えるところにお菓子やケーキなどを置かないことです。 山田 毎日の暮らしの中でも、ちょっと工夫するだけで肥満防止につながるアイデアが結構ありますね。 *三浦敬三さん (1904~2006年)。99歳でモンブランの氷河をスキー大滑降。プロスキーヤーで登山家の三浦雄一郎さんの父親。

山田英生:食べすぎは、明らかな老化の原因。腹七分の食事を習慣に。

食べすぎは、明らかな老化の原因。

腹七分の食事を習慣に。

1日3食 バランスよく食べる  

    90歳、100歳になっても健康で自立した生活を送れる健康長寿こそ、誰もが思い描く理想の老後像かも知れません。そんな健康長寿を実現するためには、肥満を防ぐことも重要な要素の一つ。そのためには、食事量などの摂取カロリーを減らし、日々体を動かすことによって消費カロリーを増やすことが前提になってきます。特に食事面でのカロリー制限は、何よりも大切で、食べすぎは寿命や健康、老化にも悪影響を及ぼす原因になる恐れもあります。いつまでも若々しく元気に過ごすには、1日3食をバランスよく摂り、腹七分目で、おいしく食べながら上手に痩せることが欠かせません。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)がカロリー制限と健康長寿の関係や確実に痩せるための方法などについて語り合いました。

過食は万病のもと

   山田 肥満を解消するには摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やすことが重要ですね。でも言うのは簡単ですが、これを実行するとなると、なかなか大変です。無理なく痩せるよい方法はありませんか。

   白澤 肥満を招く原因は、何といっても食べすぎです。今、日本は、食べたいものがいつでも食べられる飽食の時代です。でも、欲望にまかせて好きなだけ食べていたら、肥満だけにとどまらず高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病やがんを招いても不思議ではありません。最近の研究では食べすぎが老化を早め、認知症になりやすいこともしだいに明らかになってきました。

    山田 肥満を防ぐためには、まず食べすぎないことですね。

    白澤 そうです。一言でいえば、カロリー制限、ダイエットをすることです。食べすぎがよくないことは、サルやネズミ、ミジンコなどを使った動物実験で科学的にも証明されています。たとえば、2009年にアメリカのウィスコンシン大学の研究者が発表した「アカゲザルの研究」がよく知られています。人間に近い霊長類、アカゲザルを長期間、観察し続けた研究データです。

   山田 どのような研究ですか。

   白澤 アカゲザルのグループを「通常のエサを与えたグループ(38匹)」と、「エサの量を3割減らし、7割に制限したグループ(38匹)」の2つに分け、20年近く観察しました。その結果、通常のエサを与えたグループの生存率は、約63%だったのに対し、エサを7割に制限したグループは、約87%でした。さらに、驚いたのが病気の発生率です。通常のエサグループでは、がんを発症したサルは38匹中8匹、糖尿病は匹、心臓病は4匹だったのに対し、エサを制限したグループでがんを発症したのは4匹、心臓病2匹で、糖尿病にいたっては0。その差は歴然としていました。

   山田 エサの量を減らしただけで、こんなにも死亡率が低く、病気にもなりにくいとは、驚きですね。

肥満者いない100歳

   白澤 もっとショックだったのは、両グループの見た目の違いです。通常のエサを与えたサルは、毛並みはボロボロ、動作も緩慢、見るからに老化していた=右のサル=のに対し、エサを制限したサルのほうは、毛並みも艶々し、目つきも鋭く、動きも敏捷で、全体的に見ても実に若々しいのです=左のサル(いずれもイメージ図)。また、脳の老化も、通常のエサを与えたサルのほうが進んでいました。このように、カロリー制限をするだけで寿命や病気の発症、見た目に大きな違いが出るのです。人間だって同じで、健康で長生きしたければ、痩せていることが重要な要素になりますね。元気で自立している100歳の方に共通しているのは、皆さん太っていないことす。

    山田 昔から「腹八分に病なし」とか「腹八分に医者いらず」とよく言います。食べすぎや飲みすぎは体によくない」という意味ですが、自分では食べすぎが健康に悪い、とわかっていても目の前においしそうな料理が並ぶと思わず手が伸び、食べすぎてしまいます。健康のためには実際どのくらいの量を食べたらよいのでしょうか。

腹八分でも多すぎる 

   白澤 昔から食べる量の目安として「腹八分がよい」と言われていますが、本当に健康長寿を目指すのなら、八分でもちょっと多すぎる、と私は思いますね。カロリー制限をする場合、本来は適正なカロリー計算をして行うべきですが、一応食べる量の目安としては「腹七分」くらいにするのがよいと思いますね。年をとると、体の代謝能力も落ちて、エネルギー効率が悪くなります。それなのに、若いころと同じように食べていたら、消費しきれないエネルギーが体に蓄積され、太ってしまいます。

   山田 でも、摂取カロリーを減らそうとするあまり、栄養バランスを崩してしまっては、せっかくの減量も意味がありません。カロリーの減らしすぎは、免疫力や骨密度の低下を招き、健康面にマイナスの影響を及ぼすともいわれています。カロリー制限をする場合、適正なカロリー量は、どのようにして算出しますか。

   白澤 適正なカロリー量は、人によって違います。例えば、デスクワークが中心の人と肉体労働の人では、1日に使うエネルギー量もまったく異なり、必要とするカロリー量も自ずから変わってきます。適正なカロリー量がどのくらいかを算出するには、「1日のエネルギー所要量=1日の基礎代謝量×生活活動強度」の計算式に当てはめればすぐ出てきます。

   山田 エネルギー所要量とは、1日にどれだけの栄養素やエネルギーを摂取したらよいかという指標のことですね。では、基礎代謝量、生活活動強度とは何ですか。

   白澤 基礎代謝量とは、安静の状態で人が必要とするカロリーのこと。性別・年齢別によってカロリーが異なり、50~69歳の男性なら1日当たりの基礎代謝量は1350kcal、女性なら1110kcalとなります。一方、生活活動強度とは、エネルギー消費量からみた日常生活の活動の強さのことで、その度合いによって「低い」「やや低い」「適度」「高い」の4段階に分かれます。たとえば、60歳の女性で、あまり動かない人なら生活活動強度は、「低い」の1.3になります(下記表を参照)。60歳の女性の基礎代謝量は1110kcalですから、これを数式に当てはめれば、「1110(kcal)×1.3=1443(kcal)」。つまり、この女性の1日当たりのエネルギー所要量は、1443 kcalになりますね。

   山田 なるほど。意外とわかりやすいですね。

 白澤 昨年、101歳を迎えられた聖路加国際病院の理事長で、医師の日野原重明先生に伺った話では、先生はご自身の基礎代謝量に加え、医師としての日常業務、講演、執筆などの活動状況などを考慮し、1日の摂取カロリーを1300kcalと決められているそうです。70歳以上のふつうの男性が必要とするカロリーの摂取量が、1850kcalですから、先生の場合は、7割強の摂取量になりますね。まさに「腹七分」といってもよいでしょう。しかも、体重は今65kgで、20代の時(60kg)とあまり変わっていないそうです。先生は、今も多忙な毎日を送っておられますが、どうやら元気の秘訣の一つに、腹七分目の食事があると私は思っています。ぜひ、皆さんにも「20歳の時の体重+5kg以内」を目指していただきたいですね。

山田 私も「腹七分目」をぜひ心がけたいと思います。

毎日、体重チェック 白澤 

 それと、20歳の時の体重を目指すには、当時の写真を引っ張り出してきて、そのころのスタイルに戻ることを目標にしたらどうでしょうか。そのためには、毎日、体重計に乗る習慣をつけ、体重を量ったらそれを手帳などに書き込むことから始めてみるのも一つの方法です。また、その日に何を食べたかを記録しておくのも、効果的だと思いますね。

 山田 食べすぎはよくない、とわかっていても食事管理は毎日のことでもあり、よほど強い意志がなければ根気よく続けるのは、結構難しいものです。その点、最近の血圧計や体重計、体組成計、歩数計などはメモリー機能や通信機能を持つ製品が増えてきました。日々の食事の記録をパソコンや携帯電話を使ってメールで送ってもらい、その結果をもとに管理栄養士がアドバイスして従業員の健康を管理する企業まであると聞きました。こうした支援サービスを利用すれば、食事の自己管理もしやすくなるでしょう。でも、せっかく減量に成功したとしても、それを維持するのは並大抵のことではありません。肥満の人で減量に成功しても、1年後には約60%の人が元に戻ってしまうとの報告もあるそうです。このようにリバウンドしないためにはどうすればよいですか。

 白澤 確かに極端な食事制限や短期間で急激に体重を減らしたりすると、リバウンドしてしまうケースが多いですね。リバウンドしないためには、急激に体重を落とさないで1カ月に1kgとか、じっくり時間をかけて少しずつ痩せること。それと、食事と運動をバランスよく組み合わせ、生活のリズムを安定させることも大事でしょう。食事はおいしく食べて楽しみながら痩せたいものですね。

低栄養にも注意を

 山田 カロリー制限をするうえで、気をつけなければならないのが、低栄養の問題でしょう。ダイエットに励むあまり、栄養不足に陥り、健康を害しては何のための減量なのかわかりません。特に年をとると、「粗食は低カロリーで健康によい」と思い込み、あっさりしたものばかりを好む傾向があるようです。そのため、肉類などのタンパク質や乳製品、油脂類などが不足がちになり、健康上いろいろな弊害が出てくる恐れもあるみたいですね。

 白澤 その通りです。確かに高齢になると活動量が落ち、その分必要なエネルギー量も減りますが、その一方で、咀嚼力などが落ち、必要なだけの栄養が摂れない「低栄養」に陥る危険性も出てきます。だから、「やみくもに、ただ粗食にさえすればよい」というのは間違いで、高齢者が栄養不足に陥らないためには、食事は1日3食をバランスよく摂り、肉などの動物性タンパク質や油脂類なども摂取する必要があります。

山田英生: 肥満は不健康の代名詞

「恰幅がいい」は不健康の代名詞。                       まずは体重の5%減量を目指しましょう。

 メタボの元凶 内臓脂肪型肥満

 飽食の時代、肥満の人が増えてきました。特にお腹の周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」が目立っています。「肥満なんてたいしたことはない」と軽く考えていたら、後で取り返しがつかなくなります。肥満からやがて高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に陥り、さらに動脈硬化から最悪の場合は、心臓病や脳卒中など深刻な病を招く恐れがあるからです。メタボリックシンドロームの元凶である内臓脂肪型肥満を解消することが、健康長寿を目指すための第一関門といえるでしょう。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が、内臓脂肪型肥満の怖さとその解消法などについて語り合いました。

 肥満は万病のもと                                山田 最近、肥満の人をよく見かけるようになりました。昔は、太り気味の男性は「恰幅がいい」とか「押し出しがいい」などと頼りがいがある人の象徴のように言われたものです。ところが、今は逆に「メタボ、メタボ」と不健康の代名詞のように言われるようになり、肩身の狭い思いをしている人もいるのではないでしょうか。確かに肥満は、生活習慣病の原因の一つであり、特に内臓脂肪型肥満は、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などと深く関わり、メタボリックシンドロームの元凶ともいわれています。                                     白澤 日本人の肥満も20年前に比べ、男性は1.5倍に増え、男性の約3割、女性の約2割が肥満といわれています。肥満には皮下脂肪型と内臓脂肪型があり、最近、特に増えてきたのが内臓脂肪型です。この肥満が怖いのは、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの原因となり、動脈硬化から心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、脳出血など生命を脅かす重大な病気を引き起こす危険性があるからです。それだけではなく、肥満の人は、がんや認知症などにもかかりやすいことが最近の研究でわかってきました。    山田 まさに「肥満は万病のもと」といえなくもないですね。こうした肥満が増えてきた背景には、肉類を中心とした食生活の洋風化や運動不足などライフスタイルの変化があると思います。職場ではパソコンなどの普及でデスクワークが増え、隣の同僚とさえメールでやり取りするなど体を動かす機会がめっきり減りました。      白澤 都会の駅には、必ずエスカレーターやエレベーターがついており、動く歩道まであるでしょう。交通機関の発達はめざましく、田舎では車が足代わりとなっています。家事もボタン一つ押せば、電化製品が何でもやってくれる時代となりました。現代社会は、自ら体を動かさなければ太るような仕組みになっています。       山田 それでも、海外の国々と比べると、日本はまだ肥満の人は少ないようですね。日本では肥満の目安であるBMI*が25以上の場合を「肥満」としていますが、OECD(経済協力開発機構)の発表では、日本の成人人口に占める肥満の割合は、男女とも3%で加盟33カ国中、最も低かったと新聞に載っていました。ちなみに、加盟国の平均は女性17%、男性16%で、米国にいたっては女性36%、男性は32%の人が肥満だそうです。

遺伝の影響は約30%                               白澤 まさに肥満大国アメリカ。約3人に1人以上が肥満ということになりますね。 山田 いつでしたか新聞にハンガリー政府が肥満防止のため、スナック菓子や清涼飲料水など糖分や塩分の高い商品に課税し、デンマークもバターやチーズなどを対象に「脂肪税」を導入する、との記事が出ていました。今や肥満対策は世界的にも待ったなしの緊急課題です。肥満は食生活や運動などの生活習慣が大きく影響しているといわれますが、肥満家系などの遺伝的な影響はないのでしょうか。           白澤 よく「私が肥満なのは、家系だから」などと言う人がいますよね。でも、肥満に占める遺伝の影響の割合は約30%で、残りの約70%は食生活や運動などの環境的な要因によるものといわれています。たとえば、アメリカ大陸の先住民、ピマインディアンとタラフマラインディアンの生活様式をもとに、環境が肥満に及ぼす影響を調べた興味深い研究があります。どちらの先住民も、20世紀初頭まで野外生活を送り、それまで肥満や高血圧症、糖尿病、脂質異常症などを発症する人は、ほとんどいなかったそうです。  ところが、ピマインディアンは、政府が用意した住宅で生活し、ハンバーガーなどのファストフードを食べるようになってから肥満の人が増え始め、今ではその中の多くの人たちが極度の肥満を伴うメタボリックシンドロームであるといわれています。もともと彼らは、太りやすい遺伝子を持ってはいたものの、野外生活をしていた時は、それほど太ってはいなかったようです。          看過できないメタボ                              山田 結局、私たちと同じモンゴロイドである先住民が持っていた「倹約遺伝子」による遺伝的要因に加え高脂肪、高カロリーの食生活が彼らをメタボにしてしまったのですね。                                   白澤 その通りです。一方、タラフマラインディアンは、野外で暮らす生活様式を変えようとはしませんでした。その結果、彼らは今も、スリムな体型を維持し、血圧、コレステロール、中性脂肪、脂肪摂取率のどの数値をとっても正常でした。この研究結果からいっても、私たちのライフスタイルが健康にいかに多くの影響を及ぼしているかがよくわかります。                           山田 同じことはオーストラリアの先住民、アボリジニについてもいえますね。彼らの食事と健康に関する調査を行った知り合いの医学者から聞いた話では、アボリジニはもともと、メルボルン近くの海岸沿いで暮らし、移動しながら木の実を拾い、貝などを食べて生活していたそうです。                       ところが、18世紀以降、入植してきた欧米人に土地を奪われ、「保護」の名の下に居留地に押し込められ、小麦粉と砂糖、塩、ラードなどだけを与えられて生活するようになりました。現在は、都会で暮らしながらファストフードなどを食べている人が多く、当然健康状態はよくありません。40歳代では、3人のうち2人が高血圧症や糖尿病に悩まされ、平均寿命も白人より20歳近く短い、と聞きました。健康に与える食生活や生活様式の影響は本当に大きいですね。                    白澤 今、話題になっているメタボリックシンドロームも、糖質や脂質、タンパク質が正常に代謝されない状態、つまり代謝異常によって内臓脂肪が蓄積され、生活習慣病や生命にかかわる重大な病気を引き起こすリスクのある疾患といえるでしょう。診断基準では、腹囲が男性85cm、女性90cm以上に加え、高血圧や高血糖、脂質異常のうち、2つ以上を併せ持っていたらメタボリックシンドロームと診断されます。    山田 この内臓脂肪型肥満こそ、高血圧や高血糖、脂質異常の共通の原因であり、諸悪の根源だったわけですね。食事や運動などでこの根源を断てば、こうした生活習慣病にならなくて済むのですが、市町村が運営する国民健康保険によるメタボ健(特定健康診査)の受診率の低さからもわかるように、自分が「メタボ」とわかっていても、「たいしたことはない」と軽く考えている人が実に多いような気がします。    白澤 メタボを軽く考えているとしたら、それは大きな間違いです。「死の四重奏」と恐れられているように、内臓脂肪型肥満に糖尿病や高血圧症、脂質異常症が複数重なり合うと加速度的に動脈硬化が進行し、最終的には心筋梗塞や狭心症といった生命にかかわる動脈硬化性疾患を引き起こしかねないからです。

注目の超善玉物質

 山田 こうした動脈硬化や生活習慣病の予防・改善に有効な物質として最近「アディポネクチン」が注目されていますが、この物質にはどんな働きがあるのですか。

 白澤 アディポネクチンは、内臓脂肪から分泌される超善玉物質で、血管にできた動脈硬化を発見しては修復したり、ブドウ糖が筋肉や細胞内でエネルギー源として効率よく使われるようにするなどの働きを持っています。わかりやすくいえば、動脈硬化を抑制する作用や高血圧症、糖尿病などの予防・改善に大きな力を発揮する作用があるといえますね。                               ところが、内臓脂肪が過剰に増えると、アディポネクチンの分泌量が減り、ブドウ糖が効率よく利用できなくなって血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まる可能性があります。また、すい臓から分泌されるインスリンの効き目が悪い状態、つまり「インスリン抵抗性」によって腎臓でのナトリウム(塩分)の排出機能が低下し、血圧が上昇することだってあります。                          山田 せっかく、健康によいアディポネクチンを持っていても、肥満になってその力を十分に利用できなければ、実にもったいない話ですね。メタボは軽く考えないで、その怖さを知って適切に対処する必要がありそうですね。            白澤 メタボリックシンドロームは、「健康」という歯車を逆回転させるだけでなく、金銭面での負担も大きいですよ。ある調査によると、メタボの男性1人当たりの年間入院医療費は平均で36021円と、メタボでない人の1.3倍、外来医療費も約1.4倍かかるとのデータがあります。さらに、メタボの女性は、男性よりもっと医療費がかかっているようです。増える一方の国の医療費や患者さん個人の医療費を抑えるためにも、メタボリックシンドロームを予防することがいかに重要であるかがわかるでしょう。

 減量は、じっくりと                               山田 メタボの予防、その元凶である内臓脂肪型肥満を解消するには、簡単にいえば、摂取エネルギーを減らし、消費エネルギーを増やして体重を落とせばよいわけですが、減量に取り組む場合、どの程度の減量を目標にすればよいですか。

 白澤 私は、肥満の患者さんには「生活習慣病の予防、改善のためには現在の体重の5%を減量の目標にしましょう」とアドバイスしています。たとえば、体重80kgの人なら、4kgの減量を目指すことになりますね。でも、いきなり4kgを減らすのは、健康上よくないので、1カ月に1kg前後を目安に4カ月から半年かけてじっくり減量するのがよいと思います。「1カ月に5、6kg痩せたい」というように減量の目標が高すぎると、途中で挫折したりして長続きしません。

 山田 摂取カロリーを減らそうとするあまり、栄養素のバランスを崩してしまっては、元も子もありません。確実に達成できる目標を立て、減量効果を体感しながら、少しずつ減量していくのが長続きのコツなのですね。

 白澤 そうです。結局、肥満を解消するには、それまでの食生活を改善し、運動を習慣化することです。ダイエットを継続するには、頑張りすぎはよくありません。減量に何回も失敗する典型的なタイプが、この「頑張りすぎの人たち」です。友だちとの飲み会で、つい飲みすぎたり、食べすぎたりしても、また明日から仕切り直せば、取り戻すこともできます。焦らずにじっくりと時間をかけて減量することですね。

 * BMI(体格指数)=[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]

山田英生:元気を守ってくれるのは自身の食生活

大切な栄養や、明日への元気を運ぶ血管。

 

守ってくれるのは、あなた自身の食生活です

 

 

 

 

 

コレステロールと脂質異常症

 

 食生活の洋風化とともに近年、急速に増えているのが脂質異常症(高脂血症)です。血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪が多すぎる病気で、放置すれば動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などを発症するリスクのある怖い生活習慣病の一つです。その主な原因は、過食や脂肪の摂りすぎ、運動不足、喫煙などの乱れた生活習慣などにあるといわれています。加齢とも関係する脂質異常症を防ぐにはどうすればよいかー。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が脂質異常症や心筋梗塞などのメカニズムとその予防法などについて語り合いました。

 

増える脂質異常症

 

 山田 職場の健康診断や人間ドックなどで、「コレステロールや中性脂肪の数値が高めです。注意してください」などと言われると、ドキッとしますね。自覚症状がないからといって、そのまま放置していると、動脈が硬くなって、血液の流れが悪くなる動脈硬化を引き起こしかねません。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。最近は、こうした脂質異常症の人が増えており、潜在患者も含めると、その数は2200万人にも上るといわれています(厚生労働省調査)。この病気は年を重ねるごとに増え、高齢者にとっては避けたい病気の一つでしょう。しかも、生命を脅かす心臓病や脳卒中につながる怖い病気であるのに、高血圧や糖尿病などと比べて軽視されがちです。脂質異常症とは、どんな病気ですか

 

 白澤 脂質異常症は、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール・以下LDL)や中性脂肪などの数値が高いと動脈硬化になりやすいことから、これまでは、「高脂血症」と呼ばれてきました。しかし、HDLコレステロール(善玉コレステロール・以下HDL)が低くても動脈硬化になりやすいため、2007年から病名が「脂質異常症」と改められたのです。この病気は、簡単に言えば血液中のコレステロールや中性脂肪の数値が基準よりも悪い状態のことをいいます。

山田 コレステロールといえば、「悪玉」「善玉」などと呼ばれ、まるで勧善懲悪の時代劇「水戸黄門」の登場人物を思わせるような印象がありますね。さしずめ、悪玉は悪事を企てる「悪代官」、善玉はこうした悪党どもを懲らしめる「黄門様」といったイメージでしょうか。

 白澤 確かにコレステロールや中性脂肪には、「体によくないもの」「動脈硬化を引き起こす犯人」といった『悪者』のイメージがつきまとうのは否めません。その一方で、人間の体にとって、なくてはならない大切なものであり、私たちが毎日を健康に過ごすうえで重要な役割を担っています。

 山田 たとえば、どんな役割があるのですか。

 白澤 私たちの体は、約60兆個の細胞からできていますが、コレステロールはその細胞を包む「細胞膜」の構成成分の一つとなっています。また、心身の活力を高めてくれる「副腎皮質ホルモン」や生殖機能をつかさどる「性ホルモン」などの成分にもなっているほか、腸での脂肪の消化吸収を助ける「胆汁酸」を構成する素材としても欠かせません。

  

酸化LDLに注意を

 

山田 コレステロールは、私たちの健康を保つうえでとても重要な役割を担っているのですね。コレステロールには、「悪玉」と呼ばれる「LDL」と、善玉と呼ばれる「HDL」などがありますが、どのように違うのでしょうか。

白澤 LDLは、肝臓でつくられたコレステロールを全身の組織へ運ぶ役割を担っていますが、血液中に増えすぎると、動脈硬化の原因となることから「悪玉コレステロール」と呼ばれています。でも、LDL値が高いというだけで動脈硬化を発症するわけではありません。動脈硬化を起こす犯人は、活性酸素によって酸化された悪玉コレステロールなんです。つまり、血管壁の内側に入り込んだLDLが活性酸素によって酸化され、「酸化LDL」になると、免疫細胞の一種であるマクロファージがこれを「異物」とみなし、取り込もうとします。お腹がいっぱいになるほど酸化LDLを取り込んだマクロファージは死滅すると、血管壁の内部に付着し、その結果、血管が狭く硬くなり、血液が流れにくくなって、動脈硬化を引き起こすのです。LDLの酸化には、糖尿病や高血圧、喫煙なども影響してきます。

 

 山田 なるほど、ここでも活性酸素が悪さをするのですね。

 白澤 そうです。これに対し、HDLは、全身の組織から余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す働きをしているので、「善玉コレステロール」と呼ばれています。でも、HDLが不足するとコレステロールを十分回収できなくなり、動脈硬化の原因になりかねまん。

  

貴重な熱源中性脂肪

  

 山田 コレステロールは、多すぎてもよくないし、少なすぎてもダメ。結構複雑でわかりにくい成分ですね。では、中性脂肪には、どんな働きがあるのですか。

 

 白澤 中性脂肪は、肝臓でつくられるほか、食事からも摂取され、体内に貯蔵される大事なエネルギー源といってもよいでしょう。血液を通じて全身の組織に運ばれ、使いきれずに余った分は、万が一に備えて皮下脂肪や内臓脂肪に蓄えられ、必要に応じて血液の中に供給され、使われています。

 

 山田 中性脂肪というと、とかく「肥満の元凶」とか「ダイエットの天敵」といった「悪者」のイメージがつきまといますが、エネルギー源としての役割のほかにも、寒い冬に体を外気から守り、体温を一定に保つ断熱材としての効果や衝撃を受けた時のクッション材としての働きがある、と聞いたことがあります。

 

 白澤 その通りです。でも、中性脂肪も増えすぎると、内臓脂肪が増加して肥満を招き、生活習慣病の原因にもなります。また、中性脂肪が多いと、HDLが減ってLDLが増え、動脈硬化を引き起こす原因にもなりますので、その摂りすぎには十分注意する必要がありますね。ちなみに、脂質異常症の診断基準では、LDLが1dL(デシリットル)当たり140mg以上を「高LDLコレステロール血症」、HDLが40mg未満の場合「低HDLコレステロール血症」とし、中性脂肪は150mg以上を「高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)」と診断しています。

 

 山田 動脈硬化を引き起こしやすいコレステロールは、どのようにしてできるのですか。

 白澤 コレステロールが体内でつくられる経路は2つあります。ちょっと、専門的になりますが、一つは食事で摂る脂質や糖質に由来する「外因性代謝経路」、もう一つは肝臓でつくられる「内因性代謝経路」です。でも、体内のコレステロールの約3分の2は肝臓でつくられており、食事からつくられるコレステロールは、それほど多くはありません。それなら、「コレステロールや脂肪を多く含むものを食べても大丈夫か」と言えば、そうはなりません。やはり、コレステロールや脂肪を過剰に摂れば、動脈硬化を引き起こす原因になります。

 

 山田 コレステロールの高い食品としては、鶏卵や肉の脂身、バターなどの乳製品がよく知られていますが、どれも日常の食生活では馴染みのあるものばかり。これらの食品が食べられなくなると、大好きな人には辛いですね。

 

 白澤 コレステロールが多い食品だからといって、全く摂ってはダメというわけではありません。確かに普段コレステロールが高めの人は、コレステロールの高い食品はできるだけ控えたほうがよいでしょう。また、中性脂肪の高い人も砂糖などを減らすとともに、お酒も控えめにしたほうが無難かと思います。要は栄養バランスのよい食事をすると同時に、食物繊維やミネラルなどもしっかり摂ることですね。

  

怖い心臓病、脳卒中 

 

 山田 脂質異常症や高血圧、糖尿病などを治療もせずに放っておくと、動脈硬化を引き起こし、その先に待っているのが心臓病や脳卒中ですね。心臓病によって亡くなる人は年間約19万人、脳卒中によって亡くなる人は約12万人といわれ、がんに次いで死亡原因の2位、4位を占めています(厚生労働省 2011年人口動態統計)。最近は、治療技術の進歩もあって心筋梗塞や脳梗塞を発症しても助かる人が増えてきましたが、たとえ一命をとりとめても手足のマヒや言語障害などの後遺症が残る人も少なくありません。さらに、寝たきりや要介護の状態になる人も多いようですね。

 

 白澤 心臓病の中で、代表的な疾患といえば、狭心症と心筋梗塞が挙げられます。心臓の筋肉(心筋)に血液と栄養素を送っているのは、「冠動脈」ですが、動脈硬化が進むと、動脈内側の空洞(内腔)が狭くなり、心筋への血液の供給量が少なくなってしまいます。つまり、血液の流れる血管というパイプが細くなって、狭心症や心筋梗塞を引き起こすのです。狭心症は、心筋が酸素不足の状態に陥って胸が締め付けられるような痛みを生じます。これに対し、心筋梗塞は動脈硬化によって冠動脈が詰まり、心筋への血流が途絶えてしまうのです。そうなると、激しい胸の痛みを伴う発作に襲われ、早急に適切な治療をしないと生命に危険が及びかねません。

 

塩分、砂糖は控えめに

 

山田 一方、脳卒中には血管が詰まって血液が流れなくなる脳梗塞、脳の血管が破れて出血する脳出血や、脳の周りの血管から出血するくも膜下出血などがありますが、こうした病気は突然死を引き起こす危険性もあるだけに十分な注意が必要ですね。

白澤 特に中高年に多いのが「脳梗塞」と「脳出血」ですね。脳梗塞には、動脈硬化によって脳の血管が狭くなったり、塞がって血液が流れなくなるものや、心臓でできた血栓(血液の塊)が血流に乗って脳の血管に流れ込んで詰まらせるものなどがあります。血管が詰まって血流が途絶えれば、その先に酸素や栄養が行き届かなくなり、その部分の脳神経が死んでしまいます。一方、高血圧によって脆くなった脳の血管が破れて出血するのが脳出血で、出血した血液の塊が神経細胞を圧迫して壊死させるのです

 

 山田 心臓病や脳卒中にならないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。     白澤 いずれも動脈硬化が最大の要因です。動脈硬化の主な原因となる高血圧症や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を予防し、取り除くことが一番です。それには、栄養バランスのとれた食事を心がけるとともに、過食や塩分、砂糖、脂肪などの摂取をできるだけ控え、適度な運動や禁煙など生活習慣の改善に取り組み、肥満を避けることが重要でしょう。