山田英生:幸せで豊かな長生き生活の送り方

自立と前向きな生き方で、

幸福に満ちた人生100年を。

 

豊かな老後を目指して

 

 

 医療の進歩で平均寿命が延び、「人生100年時代」が近づいてきました。今、健康長寿を謳歌する人がいる一方で、寝たきりにつながりやすい認知症や骨粗しょう症、がんなどに罹る人が増えています。たった一度の人生であれば、「自分らしく健康で幸せに生きたい」というのが、多くの人の願いでしょう。それには、食生活や運動を中心とした正しい生活習慣の積み重ねと心の健康が欠かせません。「健康長寿を目指す生き方」をテーマに、寿命、老化研究の第一人者で順天堂大学大学院教授の白澤卓二教授(55)と予防医学に基づく心身の健康を企業理念に掲げる山田養蜂場・山田英生代表(56)の長期連載対談も、今回が最終回。老化は誰しも避けられませんが、健康への日ごろの取り組みで、豊かな老後を実現したいものです。

 

百寿者に学ぶ生き方

 

山田 日本人の平均寿命が延び、100歳を超える人は、ついに5万人を突破しました。今後、100歳を超える人がさらに増えるのは確実で、2050年には約70万人に達する、との予測もあります。今後の医療技術の進歩を考えると、「人生100年時代」は、必ずしも夢ではなくなりました。

 

白澤  「人生50年」といわれた約60年前から比べると、今は女性が86.41歳、男性が79.94歳と日本人の平均寿命は、約30年延びました。デンマークの研究では、「日本など平均寿命の高い国の2000年以降に生まれた新生児の多くは、100歳の誕生日を祝えるだろう」と予測しています。さらに、自分はどんな病気に罹りやすく、どうすれば予防できるかを遺伝情報から摑める時代も目前に迫っています。また、人類がアルツハイマー病を克服できる日もそう遠くはないでしょう。100歳へのハードルはどんどん低くなっていますね。

 

山田 日本では100歳以上の人を「百寿者」、外国では「センテナリアン」とも呼んでいます。最近の研究などによれば、百寿者には必ずしも長寿家系の人や遺伝的に恵まれた人だけがなれるのではなく、心身ともに弱い人、大病を経験した人でも日々の努力しだいでなれると聞きました。こうした人生の先輩たちの生き方は、後に続く私たちにとっても大変参考になり、そのライフスタイルから学ぶべき点もたくさんありそうです。先生はこれまで、老化・寿命などの研究を通じて多くの百寿者の方に会っていらっしゃいますが、皆さんに共通する特徴はありましたか。

 

白澤 百寿者を対象にした調査では、男性は「ひょうひょうとマイペースで生きていく人」「凝り性でとことん追求する人」、女性では「一家の中心として家族や周りの人のことを常に思いやり、一生懸命に世話をする人」という結果でした。さらに、男女に共通していたのが「依存心がなく、人生を肯定的にとらえている人が多い」という点ですね。私の印象も、この調査とほぼ同じような内容でした。些細なことでクヨクヨしたり、思い悩まず常に前向きな人が多かったように思います。また、一生を通じて太っている人は少なく、動きは実にしなやかで、軽々とされていました。というのも、食事は1日3回しっかり摂り、バランスのとれた食生活を心掛けるなど生活習慣がきちんとされているからでしょう。高齢になっても仕事を続けるなど実に体をよく動かしています。その結果として健康長寿を謳歌されているように思いますね。

 

人生はQOLが大切

 

山田 その一方で、健康長寿を妨げるがんや心臓病、脳卒中をはじめ、寝たきりにつながりやすい認知症や骨粗しょう症などのほか、糖尿病などの生活習慣病も増えています。せっかく、長生きしても認知症になったり、寝たきりになっては、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が保てません。たった一度の人生であれば、健康で幸せに生きたいものです。

 

白澤 人生は、寿命の長さではなく、QOLが大切ですね。その人がいかに人間らしく、自分らしい、幸福な生活を送れるかが、その尺度になるでしょう。たとえば、心身の健康、生きがい、良好な人間関係などですね。特に健康は、人間が幸福な人生を送るうえで、もっとも基本的な条件といってもよいでしょう。高齢期になれば、筋力の低下や関節の変形、免疫機能などの低下は避けられません。また、認知症につながりやすい認知機能の低下や、うつになりやすい心の老化が現れる場合もあるでしょう。そうした病気にならないためには、日ごろからの健康への取り組みが重要になってきます。90歳、100歳と単に寿命を延ばすだけでは、幸せな長寿とはいえません。健康で自立した人生が送れるかが重要になってきます。

 

山田 いつまでも前向きにポジティブに生きたいものですね。先生は、老化のスピードをスローダウンさせ、高齢期のQOLを保つ加齢制御的なアンチエイジングの研究を進めておられますが、そこでカギとなるキーワードは何ですか。

 

白澤 これからのアンチエイジングを考えた時、「食事」「運動」「メンタルケア」の3つが重要なカギになると思いますね。食べたいものがあふれている飽食の時代にあって、食事のカロリーを制限し、食べたい気持ちを抑える強い意志が必要です。車や家電製品の普及で運動不足に陥った現代人には、適度な運動が欠かせません。さらに、ストレス過剰の社会にあって、ストレスに負けない前向きな考え方ができるようにコントロールすることも重要でしょう。この3つはどれも大切で、どれか1つ欠けても老化を遅らせ、長生きすることはできません。

 

治療中心の医療現場 

 

山田 糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病はもちろん、がんやアルツハイマー型認知症も、食事や運動などによってある程度は、予防できることが最近の研究でわかってきたそうですね。今、医師による薬物投与や手術よりも自然治癒の力を利用することで免疫力を高め、病気にならない体をつくる予防医学が世界的に注目されています。一つは高齢化に伴って医療費が急激に膨張していること、もう一つは、今の西洋医学の力をもってしても治せない複雑な病気が増えていることが背景にある、と聞きました。しかしながら医療現場では、いまだに治療中心の医療が行われ、予防医学が抜け落ちているように思えてならないのです。

 

白澤 そもそも、日本には予防医学のインフラがありません。だから、非常にやりづらいのです。今の外来患者担当の医師は予防のための医療をほとんどやっていませんし、やろうとするモチベーションも低いのではないでしょうか。診療報酬の保険点数がつかないため、そのためのトレーニングがされていないのです。大学医学部の教育でも、教えているのは、西洋医学に基づく治療医学で、予防医学の教育と実践指導はほとんど行われていないのが現状です。

 

山田 確かに、西洋医学による治療は、感染症や臓器移植などに大きな力を発揮してきました。しかし、その先端技術をもってしても人体の精巧なメカニズムの一部しかまだ解明できていないと思います。特に人間の体や健康をトータルに診るという点で、どうでしょうか。生活習慣病や加齢に伴って起きる更年期障害や老化などは治療中心、対処療法中心の西洋医学で対応するのは、向いていない、と指摘する専門家もいます。増え続ける認知症や生活習慣病、がんなどは一度罹ると、完治しにくいケースも多く、それなら病気にならないよう予防するのが一番ではないでしょうか。今後、ますます、予防医学は重要になってくると思われます。先生も健康長寿や老化防止などいろいろ研究されていますが、具体的にどんな研究をされていますか。

 

認知症 克服の日も

 

白澤 一つは、前月号でお話ししたテロメアの研究ですね。染色体の末端にキャップのようにくっついていて、DNAを守る役目を果たしている構造体ですが、このテロメアは、若い人ほど長く、加齢とともに短くなる特徴があります。だから、採血してみて、テロメアが短かったら、一般的に「長生きできない」ということになりますね。テロメアが「寿命のバイオマーカー」ともいわれる所以ですが、それならテロメアの長さを検査し、長寿の可能性が高いか、低いかを調べたらどうでしょう。もし低かったら、自分の生活習慣の悪い点を改善していく必要が出てきます。まだ、研究段階ですが、私はこの検査を、国民レベルでできるようにしたいと考えています。これが可能となれば、予防医学の新しい道が開けてくるでしょう。

 

山田 そうなるよう期待しています。

 

白澤 アルツハイマー型認知症を例にとっても、残念ながらこの病気を治す治療法は、いまだに確立されていないのが現状です。しかし、食事や運動などで、ある程度は予防できることが最近の実験などからわかってきました。予防できれば、発症しなくなるので治療の必要はなくなります。私は「予防医学でアルツハイマー型認知症は解決できる」と考えています。あと何年かすれば「アルツハイマー病は生活習慣病だ」といわれる日が確実に来るでしょう。生活習慣病であれば、食事や運動などの生活習慣を見直せば、防ぐことも可能になります。アルツハイマー型認知症を予防することで、人類はこの病気を克服できるのではないでしょうか。 健康は自己責任

 

山田 生活習慣病の原因の多くは、食生活の乱れや運動不足、喫煙、ストレスなど間違った生活習慣にある、といってもよいかも知れません。先生がおっしゃるように、食事なら腹七分目、3食きっちりと規則正しく食べ、栄養をバランスよく摂る。適度な運動と十分な睡眠をとり、タバコを止める。そうすれば病気の多くは予防が可能になるでしょうね。

 

白澤 そう思いますね。特に高齢期では、年齢によって罹る病気が変わってきます。介護が必要になった原因として、65歳~74歳までの前期高齢者では脳卒中などの「脳血管疾患」が最も多いのに対し、75歳以上の後期高齢者では「転倒・骨折」や「高齢による衰弱」「認知症」などが増えてきます。こうした病気は、寝たきりの原因にもなりやすいので注意が必要ですが、予防も十分可能です。それと大事なのは心の持ち方ですね。「もうトシだから」とあきらめずに、何ごとにも積極的にチャレンジしていただきたいですね。

 

山田 私たちの暮らしが豊かになり、平均寿命が延びた今、「いつまでも健康で若々しくいたい」「自分らしく長生きしたい」と誰しもが願っています。健康や病気は、病院や医師にすべてを任せる時代ではなく、自分で管理する自己責任の時代といってもよいでしょう。

 

白澤 生き生きした豊かな老後を送るためには、若い頃からの日々の正しい生活習慣の積み重ね、毎日の健康長寿への取り組みが重要になってきます。一緒にサクセスフルエイジング(豊かな老後)を目指そうではありませんか。 (おわり) ご愛読ありがとうございました。